加熱済み宇宙食4691パック

はてなダイアリーより移行

星の記憶雑感4〜黒いのと白いの〜


東方二次創作アニメーション『星の記憶』とは東方キャラの活躍する話ではない。月の兎「キナコ」・月を侵略せんとする地球軍・狂った野望に取り付かれた月の王ルナ・マリウスが話の主軸であり、東方キャラは脇役なのである。「TOHO PROJECT SIDE STORY」と題されているのもそれを示していると思われる。特にメインと思われるキナコを中心に語り、雑感を終える。

キナコ/サクラ

この『星の記憶』の全ての黒幕であり真の主役。元々はサクラという名前の白い月兎(白いの)であったが、ルナ・マリウスによる侵略を受けて家族と仲間を失う。マリウスはかつて実験中の事故で妻セレーネを失い「神をも超える力」を月のエネルギー「マナ」に求めていたのだ。命からがら救われたのを永琳の母で科学者の「ヤゴコロ・オモイカネ」に救われ、その助手となる。オモイカネはマリウスに蓬莱の薬開発の命を受けていたが、ある日蓬莱の薬開発を中断しデータを破棄する。それに怒ったマリウスがサクラとオモイカネをバラバラに殺害して宇宙に流してしまった(永琳には実験中の事故としてしか知らなされていない)。一度完成していた蓬莱の薬を飲んでいたためにリザレクションして助かったサクラはマリウスに「二度」家族を奪われた事に対する復讐を企てるのである。その為に一度破棄された蓬莱の薬を再び作ろうとして完成寸前まで持っていく。しかし、蓬莱の薬は千年に一度咲くという蓬莱の花が咲かないと完成しない。花を咲かせられるのは輝夜の能力だけである。その輝夜は月から追放されている。で、ここで姿を黒く変え、キナコと名前を変えてマリウスに接触する。恐らくここで「蓬莱の薬が完成寸前である事」「輝夜を連れ戻せば蓬莱の薬が完成させられる」「蓬莱の薬を2粒飲めば神をも超える力が得られる」とマリウスに吹き込んだのであろう。完成寸前の蓬莱の薬という現物をもってすればマリウスの信頼を得るのは容易い事であっただろう。ただ輝夜は追放中の身であり、そうそう軽々に呼び出す事はかなわない。


そんな折から月と緊張状態にあった地球人の力に脅威を感じていたマリウスは最終兵器「エリュシオン」を建造させていたのだが、起動させる為のマナが足りない。ここでキナコはこんな内容を吹き込んだだろう「蓬莱の薬を完成させれば兵器を起動させるエネルギーを回復させる事が出来、長年の夢である『神をも超える力』も手に入る」と。マリウスは蓬莱の薬の力を求めてはいるが薬に関する知識はオモイカネ博士が破棄してるので全く知らない。キナコにとってはどんな嘘も吹き込み放題であっただろう(実際には「薬」そのものでエネルギーが回復する事は無い)。


状況を動かす為にキナコは地球軍と密かに接触を持つ。元々地球は月を侵略したがっているわけで、恐らく「軍を進めてくれれば、月の王ルナ・マリウスを内から殺害する」という内容であろう。想像だが信用を得るために蓬莱の薬のパワーについてもある程度は明かしたと考えられる。そして『星の記憶』本編冒頭の地球軍による月への大攻勢に繋がっていく。その後はマリウスは最終兵器発射作戦を発動し、輝夜は蓬莱の薬仕上げの為に月に呼び戻され、蓬莱の薬は完成する。ここでマリウスは蓬莱の薬を2粒呑んでしまう。何故ならキナコに「蓬莱の薬を二粒飲めば神をも超える力が得られる」と嘘を吹きこまれたからである((永琳はこのシーンで「え…?」と怪訝な顔をしている。2粒飲めば大変な事になる事を知っていたからである))。結局蓬莱の薬2つ分の力に耐え切れずオーバードーズとなりマリウスの肉体は崩壊する。キナコはマリウスに接近して背中を任される程信頼されているので、殺そうとすればいくらでも方法はある。しかしただ殺せばいいというわけではない。同じ男に二度までも家族を奪われた憎しみはただ殺すだけでは足りない。しかし1回蓬莱の薬を飲ませて永遠の命にさせた後、もう一度蓬莱の薬を飲ませてオーバードーズで殺すならば。「永遠の命」→「通常の月人の命」→「死」という二重の死を与える事が出来る。恐らくこれがキナコにややこしい殺害方法を選ばせたのであろう。


で、彼女の目的が「マリウスへの復讐」とするならば、あとに残った「大攻勢を仕掛ける地球軍」は止めなければならない。で、キナコが取った行動は自分自身をエネルギーとして最終兵器を「月に」向けて発射する事であった。ここはちょっと疑問に残る所である。戦いの火種を消し去ろうとしたのはわかるけど、その為に無関係の月兎・月人まで消し去るのはなぁ…と思うのである*1。好意的に解釈するなら、ルナの侵略から始まる「憎しみの連鎖」を月をリセットさせることで終わらせようとしたからかもしれない。


ともかく話の最初から最後までキナコが全て関わっていたわけで、東方キャラが関わったとすれば「輝夜が蓬莱の薬の仕上げをした」くらいで、後の行動は話の主軸にほとんど影響を与えていない。ただ妹紅、咲夜、鈴仙のバリエーション豊かな攻撃シーンは結構かっこいい。これだけで見る価値はあると思った。

蓬莱山輝夜

不思議な力を持つ少女にて、ルナ・マリウスの養女。輝夜の力を用いた実験中にマリウスの妻セレーネが死亡する。ある意味では「全ての元凶の元凶」。『星の記憶』本編では、蓬莱の薬を仕上げる役割。彼女に対する掘り下げがもっとあると良かったと思った。

八意永琳

『星の記憶』本編における解説役。「蓬莱の薬を2粒のむと毒になる」事や、「蓬莱の薬に月のエネルギーを回復させる事は出来ない」事など蓬莱の薬に関する重要事を色々解説したり指摘したりする。ただ結局話の流れを阻止する事は出来なかったので、傍観者的な役回りとなっている。あまりに強すぎるキャラは動かしにくいって事なのかな。

十六夜咲夜

『星の記憶』内の描写によると、月でルナ・マリウスに仕えていてある時輝夜の監視・情報収集の為に地上に送り込まれる。送り込まれた時期が比較的最近なのは、キナコがマリウスに接触し「蓬莱の薬完成には輝夜の力が必要」という情報がマリウスの耳に入った時点で送られたと考えると納得。輝夜が幻想郷にいること、幻想郷に入りやすいタイミング等をせっせと月に送信していた。しかし咲夜にはキナコの目的はもちろん、マリウスの野望すら知らされていなかった…


個人的にはレミリアとの出会いとか主従話とか話に盛り込んだら、ラストのレミ咲の会話シーンがより効果的になったんじゃないかなあとは思う。(でも尺的に)しょうがないね(YJSNPI)。

ヤゴコロ・オモイカ

永琳の母(ビジュアル的には白い永琳という感じ)、マリウスに蓬莱の薬開発を命じられるがある時開発を中断してデータを破棄。それによってマリウスに助手もろとも殺害される。「キナコ」というキャラクターを、東方キャラと繋ぐための橋渡し的なキャラクターといえる。

鈴仙・優曇華院・イナバ

『星の記憶』では「月からの逃亡者」という事に思い悩んでいる役。話の終盤ではキナコに「憎しみの連鎖から離れる」と肯定的に評される。ラストシーンで最終兵器でリセットされた月面から「玉兎通信」らしき音を聞きとる。何というか(無関係に滅ぼされた月人・月兎への)申し訳程度のフォローに見えるんだよなぁ・・・このラストシーン。「逃亡」の肯定的評価は鈴仙に取って救いになるので良いと思っただけに気になる所である。


こうしてキャラについて書いてみたが、とにかくキナコ(サクラ)が圧倒的な量である。話を洗ってみると『星の記憶』の主役はキナコなんだなぁ…という事がよくわかった。長文ちかれた…(小声)

*1:星の記憶冒頭のシーンからマリウス以外の月人の存在は確実。また鈴仙は月から逃亡した=月兎は一定数存在する