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超電波空想謀略犯罪幻想大河私小説・《醜 魔 派 始末記》(第16回〜第18回)

前回(第13回〜第15回)の続き。

第16回(2001年12月01日投稿)

479 名前: ☆超電波空想謀略犯罪幻想大河私小説不定期第十六回 投稿日: 01/12/01 03:19


《醜 魔 派 始末記》 作・スミオヤジ


※(推敲大甘/視点無視)


――彼が外に駆け出たとき、
すでに息を切らせていた。


自室を出た彼は、
住んでいるマンションの
エレベータを使わずに、
階段で一気に
七階から駆け降りてきたからだ。


真夜中の路上。


彼の自宅マンションは
大きな通りに面していたが、
今は通行車もなく、静かだった。
遠くで走行する車の音が
かすかに耳に響く程度だ。


彼はマンションの入り口で背を丸めて
喘いだ。
胸の動機が静まり呼吸が整うのを待つ。
吐く息が白い。
今夜は冷え込みが厳しかった。


不意に迫ってきた耳障りな排気音が
瞬時に爆音と化して、
前方の大通りを通過した。


彼は、少し顔を歪めて、
長く響く爆音を残した
改造二輪を見送った。


つづく

第17回(2001年12月07日投稿)

938 名前: ――→名☆超電波空想謀略犯罪幻想大河私小説不定期第十七回 投稿日: 01/12/07 15:31


《醜 魔 派 始末記》 作・スミオヤジ


※(推敲大甘/視点無視)


彼は白い息を吐きながら歩き出した。
前方の大通りに沿って、
左の方角へ向かう。


彼はそのまましばらく歩き続け、
大きな交差点へ出た。
深夜、無人の交差点に立ち、
彼は青信号を待つ。


天空を見上げる。
一面の漆黒。
星など見えない。


背後に並ぶビルやマンションへ視線を落とす。
各部屋に灯りはほとんど見られない。
所々にある看板広告の派手な活字が寒々しく目に映る。
逃れるように視線をさらに落とす。


コンビニの灯り。
ビルの一階に入った店は日中と変わらない様子だった。
一人も客の姿が見えないことをのぞいて。


彼は店内の壁や窓に過剰に貼られた宣伝ポスターに目を留めた。
すぐに顔を歪めて視線をはずした。
寒空に似合わない看板広告の厚顔無恥性と同じ嫌悪を
感じたからだ。


彼が前方に視線を戻すと信号は青に変わっていた。
間をおかず早足で横断歩道を渡る。
黙々と歩く彼の眼は信号の向こう側を見ている。
そこには黒々とした森林が蒼い闇に浮かんでいた。


――長居公園だった。


つづく。

第18回(2001年12月21日投稿)

809 名前: ☆超電波空想謀略犯罪幻想大河私小説不定期第十八回 投稿日: 01/12/21 11:31 id:jEursjq4


《醜 魔 派 始末記》 作・スミオヤジ


※(推敲大甘/視点無視)


彼は長居公園の広大な敷地に足を運んだ。


園内にぽつんと灯った照明灯の根本に彼は佇み、
ぼんやりとした表情を浮かべて周囲を見渡す。


蒼い闇の中、園内の路面とベンチは無人だった。
ジョギングする人間の姿も、浮浪者の姿も見えない。


――二年前に、この長居公園でも開催された
ワールドカップサッカー大会の経済効果で、
日本の景気はその年度の後半にかなり回復した。
次年度も契機は横這いで推移を続けたが、
米国同時多発テロ事件の発生以後、
急速な冷え込みを見せている。


ある雑誌が付けた見出しが、
事件を端的に示唆していた。


「ラディンの大いなる一撃、史上最大の不意打ち」


書店で誌面の見出しを初めて眼にしたとき、
彼は自身の頬がゆるむのを抑えられなかった。


彼は結局、掲載誌を三冊買って帰った。
その直後から彼にとって、
ラディンは完全なヒーローと化したのだ。


件のラディン本人についてだが、
現場視察中のブッシュが自爆テロ
暗殺された直後に「勝利宣言」を
ネット上に流し、姿を消した。


――以来、現在に至るまで、
彼の消息は明らかになっていない。


つづく